怖い話まとめ

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怖い話まとめ【42】

三ヶ月前、私は都会のはずれにある小さな会社に勤めていました。
骨董品などを取り扱う本当に小さな会社で、ひび割れた外観のビルの三階に
ちんまりとオフィスをかまえているような会社でした。
私はその日、残業を申しつけられて夜中の12時まで書類の整理をしていたんです。
一人一人と同僚達も仕事を終えて帰っていき、仕事がやっと終わったころには
私一人だけが取り残されている状況でした。
ただ、恐さというものは無かったんです。
霊感とかまったく無かったし、幽霊なんか信じていませんでしたから。
さぁ帰ろう、って「やっと終わった」という安堵感で立ち上がったとき急にトイレに行きたくなって、
私は荷物を持ったままオフィスから出た所にあるエレベーターの隣に在るトイレに駆けこみました。
用をたしてホッと一息ついた私は、荷物を持って「今度こそ、帰ろう」と鍵に手をかけました。
「ひゃっ・・」その鍵が凍りのようにつめたくて、私は思わず声を上げました。
その時。
キィキィ…キィキィ…
錆びた鉄のようなものがこすれあう音がトイレの外から聞こえてきたんです。
もちろん私以外の全員は既に帰宅していますし、このフロアには私の会社しかありません。
もしかしたら、他の階の方が来たのかも…それとも、警備の人?
でも、あの変な音はなんなの?
寒気を感じた私は個室の扉をそっと開き、外を覗きこみました。
トイレの中には何もいません。音はトイレの外からしているのですから。 

キィキィ…キィキィ…
音はフロアを一巡するように遠くなったり近くなったりを繰り返して、ついにトイレの前へと近づいて着ました。
私の頭は泥棒だったらどうしよう。という不安でいっぱいで、
この時はそんな物がうろついているとは思いもよりませんでした。
音はちょうどトイレの前を通りすぎようとしています。
トイレの扉は私が入ってきたときに開きっぱなしにしてあったので、
個室から覗けば誰が通り過ぎるのか、すぐ見ることが出来ます。
どうしよう…と迷いましたが、好奇心から私は個室の扉をまた開けて、外を覗いてしまったのです。
トイレ開いた扉から見えたもの……私はそれを見て、すぐに扉を閉めました。
心臓が凍りついて、息もまともに出来ません。
赤黒く錆びた乳母車がキィキィと音を立てながら横切り、
続いて真っ白い人型の霧のようなものがそれを押していくのが見えたのです。
乳母車の中からは何かが蠢くような、聞くに耐えない音が響いていて、
泥棒でも警備員でも、ましてや人間でもない何かが…このフロアを彷徨っていたのです。
乳母車の音は更に何度かフロアを一巡し、暫くすると「ガガ…」という音がして、何処かへ消えてしまいました。
「エレベーターに乗ったんだ……」私はそう気づきました。
私は静かにトイレから出ると、そのまま音を立てずにエレベーターの数字表示を見ます。
確かにエレベーターは動いていて、四階に止まりました。
小さい音が上の階から階段を通じて聞こえてきます。 

エレベーターを使えば…あの変なものに気づかれてしまうかもしれない。
アレはきっと四階も同じように何度も回る。
だったら……。
私は階段から一階へと降りる事にしました。もちろん、静かに。
足がガタガタと震えてハイヒールの音が聞こえてしまうかもしれない。
そう思いハイヒールも脱ぎました。こうなれば私が泥棒のようです。
静かに、静かに。私は荷物を抱きながら階段を降ります。
二階につくともう四階にいるアレの音も聞こえてこなくなり、ふぅと息をなでおろします。
でもまだ安心できない。
私はゆっくりと階段を降りて、ついに一階にたどりつくことが出来ました。
「やっと帰れる・・・」と私が振り返ると、またエレベーターが動きはじめたんです。
汗がぶわっと吹き出てポタポタと床に落ちるのを感じました。
数字が…一階に向かってくる。
一目散に外へと続く扉に手をかけましたが、ガチャガチャとどんなにノブを回しても開かないのです。
まるで見えない力で閉められているように。どれだけ力をかけても。
チン。
エレベーターの扉が開く音が、背後からしました。
キィキィ…キィキィ…と乳母車の音も。
アレが・・後ろにいるのです。
誰か助けて…と叫びたくても、声すら恐怖で出てきません。
乳母車が近づくにつれ、むわっと・・何か、血のような匂いまで漂ってきます。
むせ返るような匂いと、耐え切れないような恐怖。
その時、私の腕に何かが ぴちゃっ と触れて…私は振り向いてしまったのです。
「キャーッ!!」
私はそれを見て絶叫しました。 

乳母車の中にはぎゅうぎゅう積めにされた赤ん坊のような顔が蠢いていて、
それらの目が一斉に私を見てオギャアオギャアと泣きはじめたのです。
続けて乳母車を押していた白い人間の形をした霧のようなものが、
赤ん坊の顔の1つを掴むと私の腕にびちゃびちゃと押し付けていたのです。
そのあとどう逃げたかは分かりませんが、気が付くと私は自宅のベットに横になっていました。
夢だったのかも…と思い、押し付けられていた腕を見ると…私は凍りつきました。
押し付けられた個所が赤黒く変色していたのです。
その後、私はあの会社を逃げるように止め、新しい職場で働いています。
けれど私の腕の変色した痕は今でも残っていて、しかも広がりはじめています。
まるで…赤ん坊の顔のように。
あと私…時々あの会社に行きたくてたまらなくなるんです。
赤黒く錆びた乳母車に…入りたくてたまらないんですよ。